前の記事「リードハンド・スティッキング」では、オンビートを担うリードハンドが「演奏の軸」になるという考え方を紹介しました。
しかしこのアプローチだけを続けると、ひとつの問題が生じます。
フォローハンド(非リードハンド)が、いつまでも「ついていくだけ」の手になってしまう。
オンビートへの意図がない手は、感覚的に受動的なままです。左手でリズムを主導する感覚、左手でフレーズを引っ張る感覚が育ちにくくなります。
これを解決するのがオルタネートスティッキングです。
オルタネートスティッキングとは
STICK FLOW Vol.1でのオルタネートスティッキングは、「右左が交互に打つ(RLRL…)」という一般的な意味とは異なる独自の解釈を持っています。
オンビートを担うリードハンドを、意図的に入れ替える練習です。
叩くパターンは同じです。変わるのはどちらの手がオンビートに意図を持つかだけです。
なぜ入れ替えが必要か
右手がリードハンドのとき、右手は「拍の重さ」を感じながら打ちます。左手はその隙間に収まる。
では左手がリードになったとき、左手が同じように「拍の重さ」を感じられるか。
多くの場合、最初はうまくいきません。左手にリードの意図を向けると、今まで無意識に安定していた右手が途端に頼りなく感じられたり、全体のバランスが崩れたりします。これは左手がオンビートを主導する感覚をまだ持っていないからです。
この違和感こそが、練習すべき場所です。
左手でリードできるようになると、左右どちらの手にも意図を持てるようになります。演奏の選択肢が増え、フレーズの起点を左右どちらにも設定できるようになります。
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LESSON 1:3連符でリードハンドを入れ替える
3連符(8分3連符)をオルタネートで練習します。3連符は奇数グループなので、1グループ打ち終えるたびにリードハンドが自動的に入れ替わります。これがオルタネートスティッキングの核心的な仕組みです。

- BPM 60〜70、8分3連符(1拍に3打)
- 1グループ目:R L R(右がリード)→ 2グループ目:L R L(左がリード)と自然に入れ替わる
- 「今どちらの手がリードか」を意識しながら叩く
- 入れ替わりの瞬間にテンポが揺れないことが目標
奇数グループで入れ替わりが起きることを体で理解できると、3連符以外の奇数連符(5連符・7連符)でも同じ感覚が使えるようになります。まず3連符でその仕組みを確実に体に入れてください。
LESSON 2:16分音符をオルタネートで練習する
16分音符(1拍に4打)をオルタネートで打ちます。偶数グループなのでリードハンドは変わりませんが、速度と均等さのコントロールが求められます。

- BPM 60〜80、16分音符
- メトロノームのクリックに対して各音が均等に収まっているか確認する
- リードハンド(右手)がオンビートに「乗っている」感覚を保ちながら16分を刻む
- 慣れてきたら左手リードに切り替え、同じ感覚で16分を打てるか確認する
16分音符は均等さが問われる分、手の「クセ」が出やすいです。録音して聴き返すと、音量・タイミングのズレが客観的に確認できます。
LESSON 3:リードハンドスティッキングとオルタネートを切り替える
リードハンドを固定した状態(リードハンドスティッキング)と、リードが入れ替わる状態(オルタネート)を意図的に切り替えながら演奏します。

- 最初は4小節ずつ切り替える。リードハンドスティッキング4小節→オルタネート4小節→繰り返す
- 切り替えの瞬間に「リードがどちらの手にあるか」を明確に意識する
- 慣れてきたら2小節→1小節と切り替えを短くしていく
- 最終的に、リードハンドが切り替わる流れを自然に楽しめる状態を目指す
「どちらの手がリードか」という感覚が流れの中で自在に扱えるようになると、演奏の選択肢が大きく広がります。義務感ではなく、切り替えのグルーヴを楽しむ感覚で練習してください。
リードが入れ替わることで広がるもの
左右どちらでもリードを担える状態になると、次のことが可能になります。
フレーズの起点を選べる:タムのフィルや複雑なリズムパターンで、自然に弾きやすい方の手を軸にできる。
左手のゴーストノートに意図が宿る:「ついていくだけ」だった左手が、独自の表情を持ちはじめる。
コーディネーションの土台になる:足や他のパーツを加えたとき、手の役割が明確なほど全体が整理しやすくなる。
まとめ
オルタネートスティッキングで鍛えるのは「左右均等に叩く力」ではありません。左右どちらにも意図を持てる感覚です。
リードハンドの感覚だけでは右手(利き手)に意図が偏ります。オルタネートで左手にも同じ感覚を育てることで、演奏の可能性が大きく広がります。
STICK FLOW Vol.1の3つのテーマ——シングルストローク・リードハンド・オルタネート——はこの順番で積み上がるように設計されています。基礎から丁寧に進めることで、Vol.2のアクセント・サブディビジョン・ダブルストロークへ無理なくつながっていきます。
教材リンク
STICK FLOW Vol.1 — オルタネートスティッキング
リードハンドを入れ替えながら左右の感覚バランスを整える練習を収録。Vol.1の3テーマ(シングル・リードハンド・オルタネート)の締めくくりとなるセクション。
アレクサンダー・テクニーク+ドラム
左右の感覚バランスを「身体の構造」から理解したい方に。利き手・非利き手の非対称性への新しい視点が得られます。
STICK CONTROL(George Lawrence Stone著)
当レッスンでも使用しています。シングル・ダブル・ミックスのパターンを体系的に練習できる定番テキスト。
SYNCOPATION(Ted Reed著)
当レッスンでも使用しています。シンコペーションを軸としたリズムトレーニングの名著。


